正典:「お待たせしました」
五木:「あ。ども。ありがとうございます。お代は?」
正典:「いえ、お代は結構です」
小次郎:「え」
正典:「五木さんに使こてもらえるやなんて職人冥利に尽きますさけ」
小次郎:「何言うとんの...お兄ちゃん、もろとけもろとけ」
正典:「お前は黙っとけ」
奈津子:「そうかて貧乏なんでしょ」
正典:「貧乏言わんといてください。あ、どうぞ。どうぞ。」
正平:「見栄っ張りなんやでぇ」
五木:「それはいけません」
正典:「......」
五木:「これは、あなたが丹精を込めて作られた塗箸です。それをあなた自身が、そんな値打ちを下げるようなことを言ってはいけません」
正典:「......おっしゃるとおりです」
● 和田家の晩ご飯を囲む人々のインフレはとどまるところを知らず、草若の弟子たちも加わってついに9人と人多杉に。これって、かえって和田家の財政を圧迫するんじゃないか?
小草若:「ええっ!若狭塗箸製作所の和田友春が!」
喜代美:「そうなんです」
四草:「誰ですか、それ?」
草々:「あの、結婚式の時の(抱きしめる仕草をする)」
四草:「あぁ、あの頭の悪そうな男ですか」
草原:「失礼なこと言うな」
小次郎:「あいつはな、頭悪そうなんやなくて、ほんまに悪いん」
正典:「お前が言うな」
小次郎:「へへ」
小次郎:「木戸銭高こしても客入るの」
喜代美:「あかんて!お忍びで来てんやで!」
小次郎:「おう」
四草:「残念でしたね。プータローさん」
小草若:「おい」
小次郎:「小次郎や」
正典:「おんなじ意味や」
小次郎:「けっ」
● 喜代美と草々が「たちぎれ線香」の稽古をしている間、手持ち無沙汰になった小草若が正典の工房を訪れる。かつての売れっ子芸人小草若を笑顔で一蹴して、「名人の息子」対決は正典に軍配。
正典:「(工房の入り口に立つ小草若に気がつき)お」
小草若:「あ。邪魔してすいません」
正典:「あ、いやいや。一人でやる仕事やさけぇ、話相手は大歓迎です。どうぞどうぞ」
小草若:「ほな、ちょっと、そーこーぬけーにーお邪魔しますがなー!」
正典:「普通に入ったらええのに」
小草若:「失礼します」
木野鳩子(高野暢子):「糸子?何を大きな声出しとんのやあんた?」
糸子:「お母ちゃん」
鳩子:「お?」
糸子:「ほやかて、このお客さんがガールフレンドにプレゼントする言うさけ...」
正典:「いや、言うてませんよ!」
糸子:「えっ!」
正典:「あなたが勝手に勘違いしたんや」
糸子:「......ほうやろか」
正典:「ほうです」
正典:「今作ってるこの塗箸が、お父ちゃんに認めてもらえたら、わしはこの糸子さんいう人を迎えに行こう思っとる」
小次郎:「結婚するいうことけ!」
正典:「ほうや」
小次郎:「兄ちゃぁぁん!」
正典:「出来上がるのは春やし、ちょうどわしの修行も丸三年になるしな」
小次郎:「出来上がったこの、は、箸持ってやな、『毎朝、君の作ったご飯食べたい』、こない言うんやの」
正典:「勝手にプロポーズの台詞決めな!」