正典:「お母ちゃん、何か気ぃつかんか?」
小梅:「ん?」
正典:「箸、箸」
小梅:「箸、箸?」
正典:「箸、箸、箸」
小梅:「箸、箸、箸?」
糸子:「箸、箸、箸、箸!」
正典:「お前は言わんでええ」
糸子:「なんや言いたなってぇ〜」
(工房に入り電気をつける小梅。秀臣の姿が浮かび上がる)
清海:「お父さん」
(秀臣が振り返る)
正典:「秀臣さん......」
小梅:「不法侵入で、警察連れていかれますで」
秀臣:「いっそそのほうがましかもしれません」
清海:「(秀臣に駆け寄りながら)お父さん、大丈夫なん?製作所畳むやなんて、そんなこと考えんといて。私がどうにかするやな」
秀臣:「お前にそんなこと言わせたくないから畳むんだ」
(間)
奈津子:「あの...すいません...」
喜代美:「奈津子さん!?」
奈津子:「(秀臣の前に座り)よかったら、お話聞かせていただけませんか?製作所、畳もうと決意した今、社長さんにとって若狭塗箸とは何なのか?」
小次郎:「なっちゃん、こんな時取材やめぇ」
奈津子:「そうかて、こんなチャンス滅多にないもん」
喜代美:「チャンスって...」
秀臣:「私にとっての若狭塗箸ですか...」
正典:「え、答えるんこ」
小梅:「うちも聞きたいですなあ」
● 秀臣が生い立ちから箸との出会い、そして正太郎の下を去った理由を訥々と語る。秀臣の意外にもB子な半生は、朝からしんみりさせる。そんな空気をぶっ壊す、奈津子になぜか一家総出で突っ込む和田家。
秀臣:「私は......子供の頃、上手く箸が持てませんでした。ナイフとフォークで育ったもんでねえ」
奈津子:「お金持ちのお子さんなんですねえ」
正典・糸子・喜代美・正平:「いやいやいやいや」
秀臣:「父の祖国の文化に合わせて暮らしていたんです」
奈津子:「ああ!」
糸子:「それでジョン・トラボルタみたい男前なんやねぇ」
小梅:「うちはもう、ジェームス・ディーンが来たか思いましたで」
正典:「何を言うとんな」